将来は人を宇宙へ――堀江貴文さんに聞く

2017/09/08(金) 公開

2017年7月30日16時21分、北海道大樹町から日本初の民間ロケット「MOMO」が飛び立った。発射66秒後、ロケットからの通信が途絶え、飛行の安全が確保できなくなったため、地上から緊急停止指令を送信。沖合約6.5kmに着水した。

「打ち上げ自体はうまくいったが、宇宙空間には達しなかった。貴重なデータが取れたので2号機、3号機の開発を進めていく」。打ち上げ後の会見で即座に次のチャレンジへと目を向けたのは、MOMOの開発と打ち上げを行ったインターステラテクノロジズ株式会社(IST)の創業者・堀江貴文さんだ。ゆくゆくは「人を宇宙に送る」ことも見据えているという堀江さんに話を聞いた。

民間初のロケットMOMO打ち上げ「すごく大きな一歩」

MOMOは高度100kmという宇宙の入り口に行って帰る「弾道飛行」を行うロケットだ。
約4分間の無重力状態をつくり出し、宇宙観測や技術試験、企業のPR活動など幅広い商業利用を狙いとしている。

「MOMO」イメージ画像(提供:インターステラテクノロジズ)

だが、本命はMOMOの先にある。地球の周りを周回する人工衛星を打ち上げる「衛星用ロケット」だ。
人工衛星を狙った場所に正確に届けるには姿勢制御が必要なため、MOMOには姿勢制御機能を持たせていた。
難しい技術に挑戦していたのである。エンジンの性能がしっかり出たことに加え、姿勢制御も狙った通り機能したことが確認できたことから「衛星を軌道投入できるロケットシステムの半分以上はできたと思う。すごく大きな一歩」と打ち上げ後の記者会見で堀江さんは評価している。

わずか7ミリのずれで延期

今回のMOMO打ち上げは、2日間に5回の打ち上げ可能時間帯がセットされたものの、天候などさまざまな理由で延期が続いた。
中でも機体トラブルが原因で延期になった30日の朝について、堀江さんは「延期になった理由は、たぶん穴なんです」と言う。

「ロケットって燃料を入れない状態で300kg、燃料を800kg入れて1.1トン。(半分以上が燃料だから)燃料を燃料で飛ばすようなものなんですよ。ロケットの重量をどこまで減らすかが1番のポイントで、ギリギリの薄さでつくっている。だから穴1個あけるのも慎重にやらないといけない」

ロケットの機体には酸化剤の液体酸素を注入する際、気化した液体酸素を逃がすために「大気開放弁」という穴が開けられ、液体酸素タンクとパイプでつながっていた。
ところが実際にロケットに液体酸素を入れていくとタンクが収縮、パイプと穴の位置が7ミリずれ、極低温の液体酸素がロケット内部に大量に入ってきてしまったのだ。

「冷えた状態でアビオニクス(電子部品)の基板が結露して、機能しなくなってしまった。スマホを水の中に落とすと電源が入らなくなることがありますよね。でもしばらく放っておいて乾燥させたらまた使えるようになったりする。同じように、しばらくしたら搭載コンピューターが復活した」

機体、天候、海上などすべての環境が整い、ようやくMOMOが飛び立ったのは、設定された最後の打ち上げ可能時間帯だった。

「MOMO」打ち上げ時(提供:インターステラテクノロジズ)

高度10kmでロケットが真っ二つか

MOMOは120秒間エンジンを燃焼する予定だったが、発射66秒後データ送信が途絶えた。
現在のところ、通信が途絶した地点は高度約10km、MOMOの飛行速度が約マッハ1.3であったことから「MaxQ (マックス・キュー)」と呼ばれる一番空気の力を受けるポイントだったと推察されている。MaxQはロケット打ち上げに立ちはだかる、いわば「魔の領域」だ。ロケット開発者たちはこのポイントをこえるために、試行錯誤を繰り返してきた。

「推論だが、タンクとCFRP(炭素繊維強化プラスチック)の接合部など構造的に比較的弱い部分で強度が足りなかったのではないかと思います。おそらくですけど、このあたりでロケットは真っ二つになっているんじゃないかと」

一方で、発見もあった。

「MOMOを実際に飛ばしてみたら、エンジンの推力(パワー)に余裕があった。順調に飛んでいれば、目指していた高度100kmより10~20kmぐらい行けるぐらい」

推力に余裕があったことから、重量に若干の余裕が生まれる。その余裕を使って、課題となった段間部の強化をすればMaxQ対策になると考えている。

ロケットは高くつくろうと思ったら、そんなに大したことはない

MOMOが目標の高度100kmまで達しなかったことで「ロケット開発はやっぱり難しい」という印象を持った人が多いかもしれない。しかし、堀江さんは言う。

「ロケットって高くつくろうと思ったらそんなに大したことはない。僕たちは安くつくろうとして苦労している」

そもそもISTが掲げるロケットのコンセプトは「ロケット界のスーパーカブ」。これまで国の宇宙機関が開発してきたロケットは高性能を追求し、高価格になっていた。
国の観測ロケットの正確な価格は非公開だが2~7億円といわれる。一方、ISTの観測ロケットは5000万円以下を目指すという。コストを下げるために、MOMOは市販品を多く使っている。

「たとえば、消防士が背中に積んでいるヘリウムタンクを10本以上連結して使っています」

本当は、連結させるのでなく1本のヘリウムタンクの方がいい。

「タンクそのものの重さも軽くなるし、連結するバルブやパイプも必要なくなるから。間に合えば次号機は、チタン製の球形のタンクを使いたい」

ただ、ガスタンクの開発には「高圧ガス保安法」で定められた耐圧試験を重ねて認証をとる必要がある。重量、強度、コスト、法律……。民間ロケット開発はさまざまなせめぎ合いの中から最適解を見いだしていく、試行錯誤の連続である。

究極の目的は、人を宇宙に送ること

「まずは山のようにある改良点を克服して、MOMO2号機の年内の打ち上げを目指します」

今の状況は、ベンチャー企業でいう資金や技術者が集まらず実用化に苦労する「デスバレー」だという。

013年、6号機「すずかぜ」の打上試験時

2013年、6号機「すずかぜ」の打上試験時(提供:インターステラテクノロジズ)

「ITベンチャーならアプリを出せばとりあえずデスバレーを越えられる。しかしロケットはゼロイチの世界。成功しなかったら越えられない。だがこれを越えれば、次は人工衛星を打ち上げるロケット技術を手に入れることになる。その大きなステップ」

堀江さんはそう位置付ける。近い将来、人を宇宙に送ることも見据えている。

「そうでなかったら、液体ロケットにしない」

ロケットに使われる燃料には、液体燃料と固体燃料の2つがある。
「固体ロケットは花火みたいなもので火をつけたら出力調整が難しい。だから10G(体重の10倍の重力加速度)がかかり、人は乗せられない。液体ロケットなら最大でも3Gか4Gしかかからないように設計できる」

人を乗せるためには液体ロケットしか、ありえないのだ。堀江さんを突き動かすのは、「地球から宇宙へのハードルを越えれば、地上とは違う未来が開けるという予感」だという(「ホリエモンの宇宙論」2011年 講談社)。

デスバレーを越えるまで産みの苦しみが続くかもしれない。だがその先には、日本の宇宙ベンチャーがつくったロケットに乗って、宇宙に飛び立つという未来が見え始めている。
「宇宙開発の目的には終わりがない」。堀江さんの目は、遠い未来とそこから逆算した現実の両方を、しっかりと見つめている。

(2017年8月 取材・文:林公代)

堀江貴文(ほりえ・たかふみ)
1972年福岡県生まれ。インターステラテクノロジズ株式会社、SNS media&consulting 株式会社のファウンダー。約10年前からSF作家、漫画家などからなる「なつのロケット団」とともにロケット開発に着手。近著に「多動力」(NewsPicks Book)、「好きなことだけで生きていく。」(ポプラ新書)など。