「宇宙旅行専門」代理店に聞く、宇宙旅行最前線

2017/09/07(木) 公開

アメリカでは、宇宙開発ベンチャーのスペースX社が、民間人2人による月周回旅行の計画を発表、早ければ2018年に実現すると期待されています。日本でも、上空約100kmの宇宙空間へ行くツアーには、申し込みを済ませて出発待ちの人がいます。世界でも珍しい「民間宇宙旅行専門」代理店であるクラブツーリズム・スペースツアーズの浅川恵司社長に、最新事情を聞きました。

全体で約2時間の宇宙旅行

――民間宇宙旅行専門の旅行代理店ということですが、どんな宇宙旅行を扱っていますか?

浅川恵司(以下、浅川):クラブツーリズム・スペースツアーズは高度約100kmの宇宙旅行を目指して、宇宙船を開発中のヴァージン・ギャラクティック社と日本での独占販売計画を結んでいます。
宇宙旅行の出発点は、米ニューメキシコ州にある民間宇宙港「スペースポート」です。出発の4日前に宇宙旅行客が「スペースポート」に集合します。
一緒に宇宙に旅立つ6人の乗客が顔を合わせ、3日間の事前トレーニングと専門医による健康診断を受けます。その後、いよいよ出発の日を迎えます。

スペースポート・アメリカ(提供:ヴァージン・ギャラクティック社)

――宇宙船はどのような形でしょうか?

浅川:母船「ホワイトナイト2」に8人乗りの宇宙船「スペースシップ2」がつり下げられる形をしています。飛行機のように滑走路から水平に離陸し、高度15km上空で母船から宇宙船が切り離されます。その直後にロケットエンジンが点火され、マッハ3以上のスピードで一気に宇宙空間へ向かいます。

「スペースシップ2」は窓がたくさんあるのが特徴で、宇宙空間の眺めを楽しむことができます。また、無重力状態も全身で感じられるでしょう。約4分間の宇宙体験後、地球に帰還します。全体で約2時間の「宇宙の旅」です。

母船と宇宙船(提供:ヴァージン・ギャラクティック社)

宇宙旅行、申し込んでいるのはどんな人?

――宇宙旅行には、どんな人が申し込んでいますか?

浅川:世界では約700人、日本では20人が旅行代金(25万米ドル)全額を支払って宇宙旅行に申し込んでいます。日本人の男女比は男性16人、女性4人です。
アメリカではもっと男性の比率が高いですね。平均年齢は63歳。最高齢は70代後半です。
ヴァージン・ギャラクティック社の宇宙旅行の場合、年齢制限は18歳以上で上限はないので、元気であれば何歳でも宇宙に行けます。

――(日本円で約2750万円と)旅行代金は決して安くはないですが、どんな職業の方たちが多いですか?

浅川:7割以上は社長さんです。ベンチャー企業や不動産、IT、建設などの社長または社長をリタイアした人。全員にお会いしていますが、一言で言えば「ポジティブな企業経営者」という印象です。

――どういう理由で申し込んでいるのでしょうか?

浅川:皆さん、宇宙への思いや好奇心が強いです。それから世界旅行が好きな人が多い。中には170カ国を旅して回りました、と言う女性もいます。都会より辺境の地や極地が好きと言う人、冒険やハードなスポーツが好きな人、乗り物好きな人もいます。

アメリカでは航空機の免許を持っている申込者が多いですが、日本でもパイロット免許を持っている方がいますね。

浅川恵司さん

「宇宙に行く前に死にたくない」

――ところで、ヴァージン・ギャラクティック社は2014年10月、宇宙旅行機の試験飛行中に事故が起こり副操縦士が亡くなっています。この事故でキャンセルする人はいませんでしたか?

浅川:問い合わせは複数ありましたが、キャンセルはありませんでした。
事故の2日後にヴァージン・グループのリチャード・ブランソン会長が「事故の原因究明をして、宇宙旅行事業を続ける」と発表したからでしょう。
この事故でもし半分ぐらいのお客さまがキャンセルしていたら、ヴァージン・グループも宇宙旅行から撤退していたと思います。

――キャンセルなしとは正直、意外です。怖くないのでしょうか?

浅川:皆さん「夢は諦めない」という強い意志を持っています。「宇宙に行って死ぬのは怖くないけど、宇宙に行く前に死にたくない」と言う人もいますね。
怖いと思う人は、そもそも申し込まないのかもしれません。

宇宙旅行はいつ始まるのか? 注目すべきポイントは

――宇宙旅行の実現はもうすぐだと長年いわれてきました。実際のところ、いつごろ実現しそうでしょうか?

浅川:今年、アメリカの上院の公聴会でヴァージン・ギャラクティック社のCEOが「来年実現する」と発言したそうです。一方で4月にヴァージン・グループの会長リチャード・ブランソンがインタビューで「2017年中にパワードフライト(ロケットエンジンを噴射する飛行試験)が実施できなければ、2018年のフライトはない」と答えています。

今まで常に「来年こそ」とポジティブな発言を続けてきた彼が、初めてネガティブなことを言ったわけです。今年中にパワードフライトがあるかどうかに注目してください。

リチャード・ブランソン氏(左)とジョージ・ホワイトサイズ氏(右)(提供:ヴァージン・ギャラクティック社)

――クラブツーリズムが2005年に宇宙旅行を発表したときには、2008年には実現しているはずでした。お客さまをずっと待たせておくのはもどかしくないですか?

浅川:待っている間に健康上の理由などで、残念ながらキャンセルせざるを得なかったお客さまもいらっしゃいます。
ただ、ヴァージン・ギャラクティック社ではフライトを待つ間の会員同士の交流に力を入れています。アメリカにある専用スペースポートや、宇宙旅行機体が完成したときのお披露目会に申込者を招待したり、8月の皆既日食ではアイダホ州でキャンプを開催して「コミュニティーで会いましょう」と呼び掛けています。
世界中に宇宙旅行仲間ができることも魅力の一つになっていると思います。

日本から宇宙旅行機を飛ばしたい

――浅川さんは今、宇宙旅行のお仕事だけをしているんですか?

浅川:実は訪日外国人の旅行も担当しています。宇宙旅行の将来にもつながるからです。
いつか日本発の宇宙旅行が実現できたら、日本のお客さまだけでなく中国などアジアのお客さまがいっぱいいらっしゃると見込んでいるんです。

――いずれ日本からも宇宙旅行を出発させたいと考えているのですね。

浅川:はい。最初はアメリカのスペースポートから発着することになりますが、いつか海外から機体を持ってきて日本から飛ばしたい。すでに世界のあちこちにスペースポートができていて、宇宙旅行機の誘致合戦が始まろうとしています。

――日本ではどこから宇宙に飛び立つ可能性がありますか?

浅川:沖縄の下地島(しもじしま)には3000メートル級の滑走路があり、お隣の宮古島には5ツ星級のホテルがあるので条件はいいです。北海道も民間スペースポートの建設を目指しています。
ただし、宇宙機を飛ばすには、法律の整備などの課題があります。

アメリカは商業宇宙法が進んでいますが、日本は高度100kmの宇宙飛行については航空法の管轄で行うべきという考え方です。宇宙機の機体の認証もパイロットの審査も航空法が担うことになりますが、整備はこれからです。
中国は20人を乗せる観光宇宙船を作ると発表していますから、それが実現すれば逆に中国に宇宙旅行客を持っていかれる可能性もある。日本は頑張らないといけません。

――アジアからの宇宙旅行商戦が今後、激化しそうですね。

浅川:アジアのマーケットは注目されています。航空会社大手のエアバスも4人乗りの観光用スペースプレーンを2025年に営業開始すると発表し、わが社にも「日本のマーケットを教えて」と訪ねてきました。日本には技術の集積があるから、いずれ日本から飛ばしたいと。

――楽しみですね。ただ、旅行代金はもう少し安くなってほしいです。

浅川:JAXAが米コンサルティング会社と市場予測を行い2014年に発表していますが、それによると2035年にはサブオービタル飛行は約550万円に下がる予想になっています。宇宙旅行が始まれば価格は下がってくると思いますよ。

――民間企業が宇宙旅行ビジネスに関わる意義はどう考えておられますか?

浅川:ここ数年、インターネットでお客さまが直接、宿泊や航空券などを予約できるようになり、旅行会社の売り上げがどんどん下がっています。新しいビジネスを作っていかないといけない。旅行会社はもともと夢をかなえるのが商売。「宇宙旅行の夢」をかなえるのは、われわれ旅行会社の使命だと思っています。

浅川恵司さん

(2017年7月 取材・文:林公代 撮影:瀬戸口善十郎)

浅川恵司
株式会社クラブツーリズム・スペースツアーズ代表取締役社長。成蹊大学経済学部卒業。近畿日本ツーリスト(株)入社。海外旅行の企画や販売に従事。
2005年クラブツーリズム(株)に転籍。クラブ1000構想推進部長時代に、ヴァージン・ギャラクティック社宇宙旅行の日本での公式代理店交渉をまとめ、現在まで日本でのマーケティングや販売活動に一貫して携わってきた。
著書に「集合、成田。行き先、宇宙。」(双葉社)など。