対談:山崎直子×黒田有彩

宇宙旅行、どう楽しむ?

2017/09/06(水) 公開

「次の夏休みは、宇宙に行くの」なんて会話が生まれる日も、そう遠くないかもしれません。
たびたびニュースで取り上げられているように、民間でも宇宙開発が活発になり、宇宙旅行の実現が期待されています。
そんな時代を先取りして、宇宙飛行士の山崎直子さんと、宇宙飛行士を目指すタレントの黒田有彩さんが、「宇宙旅行の楽しみ方」について女性ならではの視点でおしゃべりしました。

気になる、宇宙船内でのメーク

黒田有彩(以下、黒田):私は中学生の頃からいつか必ず宇宙に行きたいと思っていて、今はタレントとして活動しながら宇宙飛行士を目指しています。
今回は宇宙旅行がテーマということで、まず気になっているのがお化粧のことなんです。たとえば、宇宙に持っていけない化粧品ってありますか?

黒田有彩さん

山崎直子(以下、山崎):ひととおりは持っていけますよ。ただアルコールなど一部の成分は引火の危険性があったりして、宇宙では使えないんです。だから一般的な香水やマニキュアは持っていけない。
私はNASAと提携しているジョンソン宇宙センターに近いクリニークのお店で、市販品からそういう成分が入ってないものを選ぶとともに、日本製のものもいくつか持っていきました。

――ファンデーションは粉だとダメなんですか?

山崎:固形状になっているものは大丈夫。液体状のものもOKです。アイシャドーもチークも大丈夫ですが、パウダー状のおしろいは控えました。

黒田:お化粧をオフするものがしっかりしていれば、けっこう自由度は高いんですか?

山崎:オフするものが、けっこう難しいんですよ(笑)。アルコールが入っていないふき取り状のものとかは大丈夫です。でも私は持っていかずに、タオルに水とせっけんをつけてふき取るぐらい。きれいにはふき取れなかったですね。

――お化粧自体を薄くしていたということですか?

山崎:そうですね。眉を描いてファンデーションつけて、口紅くらい。マスカラはつけなかった。だんだん面倒くさくなって(笑)。でもうれしいことがあって。宇宙に行くと無重力で血液が上に移動するので、顔が丸くなってしわが目立たなくなるんです。ありがたいですよね(笑)

黒田:しわが目立たないのはうれしいですね!

山崎:ただ宇宙船の中は、エアコンが常についているので非常に乾燥します。かさかさになると同時に、補おうとして肌が脂分を出すから脂ぎる。
肌としては大変な状態なんです。保湿クリームは女性だけでなく男性も重宝していましたよ。

山崎さんが宇宙で使用していた化粧品・洗面ポーチ(提供:NASA)

黒田:保湿クリームは必須なんですね! 化粧品もそうですが、何を持っていくかは旅の楽しみの一つですよね。山崎さんは宇宙に何を持っていきましたか?

山崎:私が乗ったアメリカのスペースシャトルでは、私物は二つ持っていくことができたんです。すごくいろいろ考えて、一つはミニチュアの琴。野口聡一飛行士と宇宙で合奏しました。
もう一つはペーパーウエイト。中に液体が入っていて紫外線をあてるとオパールの結晶ができるもので。宇宙で結晶化させて持ち帰りましたね。

黒田:それいいですね! 宇宙の条件だからこそ変化するものは、本当に宇宙に行った証になりますね。

山崎:「宇宙まんじゅう買ってきて」とよく冗談で言われるんですけど(笑)、宇宙にはお土産屋さんがないから自分で準備していくしかないんですよね。
大切なものとしては、亡くなった祖母が使っていた小さいくしを、私物とは別に日用品として持っていきました。

黒田:わあ、すてきですね。

暖かめの服装で、おしゃれ心も忘れずに

黒田:お洋服はどうでしょう。素材とか形とか、ポイントはありますか?

山崎:NASAでは綿100%が基本ですね。ただし静電気が起きなければ化繊でも大丈夫。宇宙船内はエアコンの温度が低めに設定されているので、暖かめの服装がいいですよ。

――山崎さんは、宇宙で着物を着ていらっしゃいましたね?

山崎:法被(はっぴ)のような上だけの着物を持っていって、すしパーティーで着ましたね。
それから出発前に「宇宙で着る普段着」を一般から公募したんです。日本の優れた繊維技術を活用できたらと思って。縫い目のない無縫製ニットとか、銅繊維を編み込んで菌の繁殖を抑えた靴下とか、藍染めで抗菌作用のあるポロシャツとか。NASAの安全審査を通して持っていきました。

ISSにて、着物姿の山崎さん(提供:ロイター/アフロ)

黒田:日本を象徴する洋服をたくさん宇宙に持っていかれたんですね! 素晴らしいです。

山崎:日本にはたくさんの技術がありますからね。
でも洋服はおしゃれ心も大事ですよね。宇宙空間ってけっこう無機質なので、色がある洋服を着ると暖かい感じになるし、「その服いいね」と会話も弾むんです。ファッションを通じて文化交流できたら面白いですよね。

黒田:オリンピックの開会式みたいですよね。
宇宙ではあんまり頻繁に着替えられないかもしれないから、たとえば気分で色が変わる服ができたりすれば、宇宙っぽいですよね。

山崎:温度や紫外線で色が変わる素材もありますよね。今、女子美術大学で学生たちと宇宙服の研究をしています。宇宙ではスカートは不向きですが、ガウチョっぽいパンツに羽をつけて姿勢をコントロールしやすくしたり、心拍数の信号をひろって光らせたりと、いろいろ考えていますよ。

黒田:それは楽しみです!

宇宙で泣いて、自撮りしたい

黒田:メーク、お洋服など宇宙旅行のイメージがわいてきました。肝心の宇宙の楽しみ方についてアドバイスをいただけますか?

山崎:一番身近な宇宙旅行は、出発して帰るまで1時間半ぐらいの「サブオービタルツアー」で、宇宙にいる時間は約5分から10分と短いです。だから何をするか事前にシミュレーションしておくといいですね。

先日、宇宙観光のシンポジウムで学生さんに「宇宙で何をしたい?」と聞いたら、「リアルタイムにSNSで発信したい」という声が多くて、驚きました(笑)。

山崎直子さん

――宇宙旅行でネット環境があるかどうかが問題ですね……。

山崎:発信は可能だと思いますよ。でも順番に写真撮るのに時間がかかったりすると、あっという間に5分、10分たってしまうので(笑)、窓の近くにあらかじめ記念撮影用のカメラをセットしておくとか、機体側のサービスも大切になるでしょうね。

せっかく宇宙旅行に参加されるなら、写真撮影だけでなく無重力を体感してほしいし、自分の目で地球を見てほしいです。有彩さんは宇宙で何をしたいですか?

黒田:もちろんまずは無重力を体験したいし、地球の青さも自分の目に焼き付けたいです。
さらに、地球に戻った時の重力や、地球の風や香りを体感して、地球の素晴らしさも感じたい。
そのためには山崎さんのように宇宙で数日間過ごして、宇宙の環境に体を適応させる必要がありますよね。

山崎:そうですね。「宇宙ホテル」が実現して滞在できるようになるといいですよね。
無重力状態に慣れてから地球に帰ると紙一枚も重くて、首の上にはまるで漬物石が乗っているようでしたよ(笑)。

「ディスカバリー」帰還時(提供:ロイター/アフロ)

黒田:へえ、面白い! 宇宙で暮らすと肩こりもなくなりそうですね。宇宙から地球を見ると、「日常の“当たり前”って、実は奇跡の連続だったんだな」と感じられると思うんです。

たとえば涙を流すっていう当たり前の現象も、宇宙では同じようには流れない。単純な現象のひとつひとつが愛おしくて感動すると思うんです。宇宙で泣いて自撮りをする、これもぜひやってみたいですね。

山崎:じゃあ、かなり豪快に泣かないと(笑)。

女性ならではの、気になること

黒田有彩さん

黒田:私は大学で研究員をしているんですが、研究テーマとして「宇宙での月経」に興味をもっていて。今日、ぜひ山崎さんにお聞きしたかったんです。

山崎:へえ、面白そうですね! どんな研究ですか?

黒田:NASAがこの前、宇宙服用トイレのアイデアを募集したんです。6日間両手を使わずに利用できることが条件で、女性だと月経があるのでどうなるのかなと思って。

山崎:2週間ぐらいの宇宙飛行だと、飛行前にピルを飲んで、月経の時期を調整することが多いですね。
でも宇宙ステーションに長期滞在する女性飛行士には、ふつうに宇宙で月経を経験している人もいますよ。ナプキンやタンポンなど地上と同じものを使って。

黒田:無重力だと経血も出にくいようですね。

山崎:そうなんです。無重力だと筋肉の使い方が変わるんですね。尿も出にくくなる傾向があります。
尿がたまっているのに出せないと膀胱(ぼうこう)炎になるので、カテーテルを使って強制的に排せつする訓練も行いますね。

――実際に使った人がいるんですか?

山崎:います、います。逆にそれを使えば大丈夫。
私自身も宇宙に行った最初の頃はすごく変な感じがしましたよ。なんとなく出にくいし、出ても出し切った感じがしない。だんだん慣れますけどね。
経血が出にくくなるのもたぶん一緒なんでしょうね。この分野の研究はあまり進んでいないので、頑張ってくださいね。

黒田:はい。いずれ学会で発表できるように頑張ります!

宇宙は「住めば都」だった

黒田:現在は月や火星に進出する構想がありますよね。宇宙にどんどん人類が進出していくと、いつか宇宙で出産し子供を育てる時代が来るでしょうか?

山崎:来てほしいですね。宇宙に行って一番意外だなと思ったのは「住めば都」になることです。訓練中は「宇宙=特殊な場所」と思っていたんですが、「案外、普通に暮らせるんだ」と。
いつか宇宙で一生を終える人が出てきても、おかしくないですね。

黒田:住めば都! 宇宙に行った方ならではの言葉ですね。

山崎:ただし、宇宙に長期間暮らす場合には、放射線が課題だと思います。宇宙ステーションに1日いると地上の半年~1年分の放射線を浴びてしまう。
月や火星には地下に空洞があると考えられていて、地下なら放射線を防ぐことができるので、案外長期に住めると思いますよ。

山崎直子さん、黒田有彩さん

――では子供を産み育てるなら、月か火星の地下ですね?

山崎:大気を改造して野菜を育てる可能性を考えると、火星の地下がよさそうですね。火星生まれの赤ちゃんが、いつか現れるかもしれないですね。

黒田:火星人ですね! 宇宙で哺乳類が妊娠、出産できるかは研究されているんですか?

山崎:ロシアが以前マウスで実験をしようとしましたが、できませんでした。マウス実験って難しいんです。
でも日本が昨年、地球からマウス12匹を運び、宇宙で飼育し、世界で初めて地上に元気に生還させました。将来的にマウスが宇宙で赤ちゃんを作ることができるのか、日本なら実験できるのではないかと期待しています。

黒田:楽しみです。宇宙の無重力状態に近い水中での出産は、地上でも行われていると聞きますが、宇宙で出産はできますか?

山崎:無重力状態だと赤ちゃんが下りてきてくれないかもしれませんね。でも水中出産ができるなら大丈夫かもしれない。または人工重力を作らざるをえないのか、興味がありますね。

(2017年7月 取材・文:林公代 撮影:瀬戸口善十郎)

山崎直子
1970年千葉県松戸市生まれ。東京大学工学部航空学科卒業、同大学航空宇宙工学専攻修士課程修了。1996年からNASDA(現JAXA)に勤務。2001年に宇宙飛行士として認定。
2010年4月、スペースシャトル「ディスカバリー」に塔乗し、ISS(国際宇宙ステーション)に10日間滞在。2011年にJAXAを退職後、内閣府宇宙政策委員会委員や、立命館大、女子美術大の客員教授、日本宇宙少年団アドバイザーなどを務める。
黒田有彩
1987年兵庫県神戸市生まれ。お茶の水女子大学理学部物理学科卒業。作文コンクールで入賞しNASAを訪問したことをきっかけに宇宙のとりこに。
宇宙飛行士の試験に必要となる専門分野での“実務経験”を「タレントとして宇宙の魅力を発信すること」と定め、JAXA宇宙飛行士試験の受験を目指している。 2017年4月から文部科学省国立研究開発法人審議会臨時委員に就任。