木下斉氏が指摘する“3つのシフト”

人口減少時代をどう生きる? 専門家の見方

2017/10/04(水) 公開

日本の人口は1868年の明治維新時には3330万人だったが、2004年には1億2784万人を記録した。これが2050年には9515万人、2100年には4771万人まで減少すると予測されている。

直近では2016年に国内で生まれた日本人の新生児は過去最少の97万7千人(前年比約2万9千人減)で、統計を始めた1899年以降初めて100万人を割り込んだ。一方、東京への人口流入は続き、地方との人口格差は開きつつある。

人口が減少する中で地方をどう捉えればいいのか。地方創生の現場に飛び込み、つぶさにその実態を見てきた木下斉さんはこう語る。「日本の専門家や専門企業は口々に『人口減少は深刻な社会課題だ』と言います。確かにそうです。なぜなら彼らは“人口増加対応”の専門家であり、専門企業だからです。問題は人口減少ということではありません。問題は人口が『増加していた時代』から『減少する時代』に“変化した”ということ。それも急激なスピードで。これが問題の源泉」だと言う。つまり局面が変化したということだ。「今までのモノの考え方は『増加』を前提にしていた。それをガラリと変えなければならない。この変化は『いままでの正解が不正解に塗り変わった』とさえ言っていい」と説明する。一体どのような発想・視点の転換が必要なのだろうか。

衝撃の増田レポート。木下さんはどう見る?

その前に、地方に関して避けることのできない話題がある。それが「消滅可能性都市」という言葉だ。これは元総務大臣の増田寛也氏を座長とする「日本創成会議」の人口減少問題検討分科会が2014年に発表した通称「増田レポート」から生まれた言葉だ。増田レポートでは「消滅可能性都市」として896の自治体が名指しで候補に上がった。

この消滅可能性都市という言葉に対して木下さんは「名称に偽りがある」と懐疑的な意見を述べ続けている。「これは都市が消えるというわけではありません。あくまで一定の設定をもとにして『このまま人口が減少していくと、現在の市町村単位での自治体経営が成り立たなくなる市町村』というだけの説明」と語る。

「今の市町村単位の自治体の経営が成り立たなくなるのであれば、再編し、より機能的かつ効率的な単位で行政を運営すればいいだけ。20万人の人口が5万人になったにもかかわらず、20万人時代の自治体単位のまま行政サービスやインフラ量を維持することは無理なのが当然ですし、何よりそもそもサービスを提供する先の市民が減っているのですから、コンパクトな組織になるか、もしくは他自治体と合同するのは必然です」と言う。

一方、地方政策の根幹には、都市と地方の対立を前提としているところに問題はあると言う。「地方を活性化させるためには、東京など都市部をとっちめて、奪おうという発想自体が根底にあったりします。ですが既に都市は国際競争時代で、都市は国内で闘うのではなく、アジアのさまざまな成長都市と競合し、優位なポジションを確立しなければいけません。国内で都市と地方で互いに奪い合ったところで、日本全体が良くなるわけではなく、むしろ東京を叩いて今ある経済力を削いでいけば、むしろ今都市部から分配している財源もなくなり、国としての競争力も落ちていくことになります。それでプラスになるのは東京でも、地方でもなく、他国の都市です」

ならば地方はどうすればいいのか。「重要なのは奪い合いではない。それぞれが成長して国外の都市とどのように貿易をするか、どの分野で異なる優位性を築いて勝てるポジションを築いていくか、ということ。そもそも地方には今は、立派な空港もあれば、高速道路、バイパスなどのインフラが充実しています。その上、東京と異なって不動産は相対的に安く、自然資源を多数持ち、また立地という点でも九州であればアジアが近いという優位性もあり成長機会はまだまだあります。国内の潰し合いを推進することは、そもそもの地方再生にもならないどころか、都市部衰退に繋がり、皆で自滅することになる誤った方向の議論です」

中でも木下さんが根深い問題だと強調するのが「地方の補助金依存」だ。「地方創生に必要なのは『おカネ』そのものではなく、おカネを継続的に生み出すエンジンとなる『事業』であり、『産業』だ」と指摘する。しょせん、単年度予算の補助金では地域経済を1周だけ回して尽きてしまう。「それよりも地元の人が自分たちで稼いで、一定の都市経済圏を成立させ、その中でインフラ整備や社会保障を回す新たな自治体経営を目指すことが肝要」だと言う。

木下さんは、今地方が必要とするのは「3つのシフト」だと断言する。それぞれの「シフト」について、事例ともに紹介する。

シフト1:「自治体」から「都市圏」という視点

1つ目は、「自治体」から「都市圏」という考え方の「シフト」だ。木下さんは「自治体単位の人口の問題ばかりに引きずられすぎ」と指摘した上で、「もちろん人口減少は深刻だし、世間で指摘されているような問題があるのはその通り。しかしながら、人口が減ったらすべてが終わりみたいな話は行き過ぎです。直近ではさらに自治体が合併する必要が出てきたりするが、自治体が合併したからといって、いきなり地域の生活そのものが消えてなくなるわけではない」と語る。

それでも人口は減っていく。何か打つ手はないのか。これに対して木下さんは「もはやどうにもならない人口減を悲観し、むしろ不可能な人口増を補助金欲しさに掲げる自治体政策に期待しても未来はない。もう少し地方を都道府県、市町村ではなく、今までとは異なった単位で捉えるほうが合理的」と提言する。

「都道府県や市町村といった自治体という単位は政治的に、歴史的に、人が便宜的に決めたものに過ぎません。だからこそ、それらは時代、時代に合わせて生活圏の変化などに応じて機能的に変更されるべき単位だと思うのですが、そうはなっていません。特に、技術革新のスピードが上がった現代においては、もはや自治体という区分とその経済圏は大きく乖離しています。既に地方は都道府県や市町村単位で移動する人なんてほとんどいなくて、普通に遊びに行くのに都道府県をまたぎ、欲しいものを買いに別の自治体にあるお店に行くなど、経済的には複数の自治体をまたいで生活しています。つまりは、都市圏という単位で経済統合は既に行われているんですよね。ただ、政治からすれば行政単位が少なくなれば議会の数も減り、議席も減ると困る。行政も統合すれば、ポストの数も減るから反対する。だから、無理やり実態経済と乖離する、今の自治体単位のまま人口をなんとか増やしたい、という背景があります」

都市圏という範囲で見ると、地方の景色は少し変わったものになる。「例えば1つの自治体では人口が数千から1万人程度かもしれない。でも『都市圏』という単位で見れば半径30kmという単位で50万人以上の都市圏として成立していることが分かったりします。自治体単位の人口減少で考えていくと、解決策が見えにくくなります。隣近所で人口の取り合いをしたり、都道府県の境目があるから合同事業ができないとか言ったりするのはナンセンスです。都市圏人口でみて、インフラの再編を考えたり、自然環境を活かしたりすれば、活路はまだまだあります」

木下さんが一例として挙げるのが仙台市と山形市だ。「この2都市はもう『同一都市』の経済圏にあると言っていい。都道府県を越えて統合して行政事業を回せば、別に山形の公共サービスを仙台で使っても、また逆でも構わないわけです。山口と福岡の県境である下関市と北九州市門司区も関門海峡という優良な自然環境と歴史ある港湾施設を活用していく可能性がありますし、島根県松江市から鳥取県米子市までの複数自治体にまたがる中海エリアで都道府県の境を越えれば、より山陰地域の再生の方向性も見えやすくなります。都市圏で物事を見ていくと、従来の市町村、都道府県の垣根があることで解決が難しい問題も、実はできることが多くなります」と言う。

都道府県や市町村の単位を越えた取り組みとして成果を上げるものの一つが、広島県と愛媛県を結ぶ「瀬戸内しまなみ海道」だという。しまなみ海道は現在、瀬戸内海を自転車で渡ることができるとあって、サイクリストたちから高い人気があり、広島側も愛媛側も合同でさまざまな観光プロモーションを展開し、世界から訪れる人が増加している。その中でも注目は広島県尾道市に誕生した「ONOMICHI U2」だ。地元の若手経営者たちが作り上げた宿泊可能な複合施設だ。

しまなみ海道を目指すサイクリストの増加に目をつけ、ONOMICHI U2内にある「HOTEL CYCLE」では客室まで自転車を持ち込むことができる。現在では施設内に自転車メーカー「GIANT」も出店し「自転車乗りの聖地」とまで言われるようになった。ONOMICHI U2に取り組む企業群は持ち株会社、せとうちホールディングスを設立し水陸両用飛行機会社を買収するなど、「瀬戸内」という広域単位で積極的な事業展開を行っている。積極的な民間の目線があるからこそ、「自治体」という垣根を越えたからこそ成長力のある観光事業を生んだ。木下さんは「国から自治体へバトンを渡すのではなく、地方の中堅・若手経営者が自治体という垣根を軽々と越えて瀬戸内という単位で地方創生を担う事例が増えていくのではないか」と予言する。

(ペイレスイメージズ/アフロ)

シフト2:先行投資から逆算投資へ

2つ目の「シフト」は「先行投資から逆算投資」だ。「人口が増えている時代は需要に供給を追いつかせれば良かった。つまりどんどん投資を増やせばいい。人口増に合わせて『供給』を続ければ成功する、という考え方が常識になってしまった。しかし、もはや人口減少に転じたらそうはいかない。既に住宅も、商業施設も、公共施設もすべてが量的には余っているのです。空き家問題、空き店舗問題、未利用・低利用公共施設が多数ある。もはや今の問題は『需要』がないということ。新たに整備する際には明確な『需要』を掴んだ上でそれに応じた逆算投資にすべきです」。逆算投資とは先に営業などを行って明確な顧客需要を確保し、その需要量に対応して逆算した投資を行う開発方法のことだ。「かつての人口増加時代には非常識と思われた方式ですが、今の時代には適合します。都市部だけでなく、農山漁村部における林業、農業、水産業、あらゆる局面において成果を上げているプロジェクトは需給関係の逆転を意識した上で、先行投資をせず、しっかりとした逆算投資モデルを採用しています」と語る。

公共施設と民間施設を一体化した巨大な施設を作ると地域が再生する。そんな“神話”の「典型的な失敗例」の一つが「青森アウガ」だ。アウガは総事業費約185億円をかけて開発され、2001年1月に第三セクター「青森駅前再開発ビル」の運営する複合商業ビルとして開業した。地下に鮮魚市場、地上4階までが商業施設、5〜8階は図書館などの公共施設が入居する複合施設である。当初から行政施設が多く入居していたにもかかわらず、その後も慢性的に赤字経営が続き、ついに2016年、運営母体の第三セクターが事実上の経営破綻。市はこの15年ほどで200億円以上の市税を投入した。ハコモノ行政の典型的な失敗プロセスをたどり、責任を巡って副市長と市長が相次いで辞任、市議の報酬や職員給与のカットに至るなど市全体を巻き込む大問題へと発展した。

そして現在の新市長を中心として青森市役所の総合窓口とする方針が打ち出された。「市が引き取った」形だ。つまり未来のアウガの維持費は青森市民が負担することになったのだ。地域活性化どころか、地域の負担増加となってしまったのである。

(撮影: 岡本裕志)

シフト3:横並びから特化へ

3つ目の「シフト」にあたるのが、「地方創生には“横並び”ではだめ。“特化”が必要だ」という指摘だ。

「昔のように同じようなものを作って大量に販売すれば良いという時代ではない。商業施設などの画一的なモデルはどんどん収益性が悪化している」という。前述の青森のアウガなどはまさにその例だろう。

「既にニーズは多様化し、小さな市場が分散しているのが現代。それを細かく拾い上げて、集積することが地域再生で大切。良いものがあれば、人は集まってくる。小さな需要の総体としての経済が今のリアル」と喝破する。

一例として挙げるのが、盛岡駅から南に電車で20分に位置する岩手県紫波町にある体育館「オガールアリーナ」や、ホテル「オガールイン」などで構成される「オガールベース」だ。中でもオガールアリーナは完全に民間資金だけで建てられた、全国でも稀有なバレーボール練習専用体育館である。交通の便も良いとは言えず、目立った観光資源もない、人口は3.3万程度のこの町に、バレーボールチームが頻繁に訪れるという。

(提供:木下斉)

木下さんは「オガールアリーナは、バレーボールプレーヤーに特化したことが極めて画期的です」と説明する。どういうことか。バレーボールの国際基準に適合した床材を用い、客席を作らず、さらにサーブのフォームをチェックするためのカメラを設置するなどの工夫を満載し、バレーボールの“練習”に特化した体育館を作り上げたのだ。

「こうした取り組みは行政ではできなかったでしょう。税金で整備するとなれば、多くの人が多目的に使える体育館にしないと反対が出てくる。しかし、そのような施設はどの競技にとっても、使いにくい、中途半端な施設になり、どんな競技にも最適でないという言い方ができるわけです。しかし、オガールベースの代表を務める岡崎正信氏は自らが高校時代にバレーボールに没頭した選手でもあり、またコーチでもあり、そして自らが役員を務める企業では社会人チームを持つオーナーでもあります。そんなプロジェクトリーダーだからこそ、全国のバレーボールチームの合宿需要などを呼び込める。その営業力をもって逆算開発が可能になったからこそ実現したのが同施設です。銀行融資などで資金調達しているからこそ施設規模やスペックにも無理がなく、経済的。地元の負担にならないどころか、町有地使用料や固定資産税などの収入が役場に生まれています。先日は、男子日本代表チームも合宿に使うなど、名実ともに日本を代表するバレーボール練習施設となっています」

全国各地をつぶさに見てきた木下さんはこう語る。「大きな計画を立て、従来の行政区にこだわって、市の威信をかけたような大規模な事業をやるととんでもない失敗をし、人口減少よりも結局のところは貴重な財源を無駄遣いするだけで、地域を衰退させる結果を招きます。むしろ、小さな民間主導の取り組みを積み上げて成果を出し、ちゃんと稼ぎと向き合うことが基本です。そうすれば所在する都市圏から人が集まり、さらに現在ではネットなどを利用すれば広域でもプレゼンスを高めていくことができます。そのような取り組みが集まった地域が、人口減少などにも負けずに存続していくことになります」

次なる「シフト」はどこから生まれてくるのか。これらの事例を見ていくと、まだまだ縮小時代の日本の地方にも可能性を感じないだろうか。シフトを実現した次なる事例の誕生に期待したい。

木下斉(きのした・ひとし)
1982年東京生まれ。早稲田大学高等学院在学中の2000年に全国商店街合同出資会社の社長就任。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一橋大学大学院商学研究科修士課程を修了。その後、熊本城東マネジメント株式会社代表取締役をはじめ各地でまち会社への投資と経営参画を進める。一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事のほか、内閣府地域活性化伝道師や各種政府委員も務める。主著に「地方創生大全」(東洋経済新報社)、「稼ぐまちが地方を変える」(NHK出版新書)、「まちで闘う方法論」(学芸出版社)、「まちづくりの経営力養成講座」(学陽書房)がある。