映画&ドラマで考える「人見知り」のこと

2017/10/11(水) 公開

映画やドラマは見て楽しいだけでなく、多くの人にとって人生の糧となる「教訓」を得る一つの方法になっているのではないでしょうか。もちろんそれは、人付き合いに苦手意識を持つ人にとっては、人付き合いの方法を盗むための「教材」ともなりえるはずです。
内向的な主人公がある出来事をきっかけに、秘めた想いを雄弁に語り、少しずつ成長していく姿に勇気をもらう。かたや魅力的な会話シーンに引き込まれ、「いつか自分も」と憧れを抱く。
「人見知り」に関係しそうなおすすめ映像作品をYahoo!ニュース 個人のオーサーで、映画ライターの紀平照幸さん(文中略:紀)と、ドラマ評論家の成馬零一さん(文中略:成)がご紹介します。

共感できる? 人付き合いが苦手な主人公が奮闘する作品

『君の膵臓をたべたい』(2017年)

孤独な少年と不治の病の少女の交流が感動を呼ぶ
ヒット中の新作『君の膵臓をたべたい』(通称:キミスイ)。他人に興味がなく、友達を作ることもしなかった高校生の【僕】(北村匠海)は、ひょんなことからクラスの人気者である山内桜良(浜辺美波)が重い膵臓(すいぞう)の病で余命いくばくもないことを知ってしまいます。秘密を共有したことで二人は一緒の時間を過ごすことが多くなり、恋愛関係とは違った不思議な仲になるのですが……。
【僕】のことを「仲良しくん」と呼んでちょっかいをかけてくる彼女の真意はどこにあるのか? そこは映画を見てのお楽しみですが、キーワードは彼女の「私は君に憧れていたんだ」という言葉。人付き合いを拒む姿も、逆の立場からすれば“たった一人で生きようとする強さ”に見えるのですね。同じ事実も見方を変えればこんなに違う。人見知りをネガティブなものとして描いていないのが特徴です。
映画は原作とは違い、この事実が明かされるのは12年後。高校教師になり母校に赴任した【僕】(小栗旬)に対してです。あえて歳月を挟んだことによって、教師としての道に自信を失いかけていた【僕】を再生させるという、映画的な感動ポイントも加えられているのです。(紀)

『箱入り息子の恋』(2013年)

意外に優しい人見知り。しかし経験値不足が災いし……
『箱入り息子の恋』は星野源の初主演映画です。彼が演じる健太郎は生真面目で内気な性格で、極度のあがり症の35歳童貞という、まさに『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年、TBS系)のプロトタイプと言える役柄。結婚願望すら持たない彼は、両親(こちらも子離れができていないのですが……)の強引な勧めでお見合いをすることになり、その席で奈穂子(夏帆)と出会うことに。彼女は目が不自由でしたが、その分耳が良く、以前雨の日に傘を貸してくれた男性が健太郎だと気付きます。やがて二人は彼女の父親の反対をよそにひかれ合っていきますが……。
見た目はややキモイ健太郎ですが、幸い奈穂子にはそれは関係なし。彼女が左利きだと気付くとさりげなく席を代わってあげたり、キスの邪魔にならないようにデートの時は眼鏡をコンタクトに変えたりと、意外と気遣いのできる人であることを示してくれます。二人のデートも吉野家で並んで牛丼を食べたり、公園を散歩したりと微笑ましいもの。しかし、思わぬ障害を前にして、健太郎は後半大暴走していきます。このあたりは人付き合いの経験値不足の弊害が出たのかも……。でも、きっとこの二人、幸せになってくれるに違いありません。(紀)

『電車男』(2005年、フジテレビ系)

男性版『マイ・フェア・レディ』とも言える歴史的作品
人見知りでコミュニケーションが苦手というと昔はオタクと決まっていたが、今はどうだろうか?
そんなオタクの男が恋愛によって成長する姿を描いた恋愛ドラマだ。
匿名掲示板2ちゃんねるに書き込まれた、オタクの男の純愛話を基に作られた『電車男』は、今から12年も前の作品。オタクに対する偏見(ほとんど犯罪者扱い)は見ていてつらいものがあるものの、2ちゃんねるに書き込む「名無しさん」とのやりとりを通じて電車男(伊藤淳史)が、美容院で髪形を変えて、服を買い、オシャレなお店でデートを成功させていく姿は男性版『マイ・フェア・レディ』とでも言うようなゲーム的な面白さがある。
見ていて楽しいのは、美女のエルメスさん(伊東美咲)とのデートの場面よりも、電車男が2ちゃんねるを通じて匿名の人々とやり取りする姿。エルメスさんをどうやってデートに誘うかの作戦を考えている場面では、掲示板の向こうにいる人々の姿をちゃんと見せることで、掲示板のやりとりの楽しさを打ち出すことに成功している。
当時は、あまりによくできたお話なので「作り話説」があったくらいだが、悪の温床というイメージだった2ちゃんねる(インターネット)とオタクのイメージを明るいものに変えたという意味ではエポックメイキング的な作品だろう。(成)

『野ブタ。をプロデュース』(2005年、日本テレビ系)

「修二」救済のストーリーを見逃すな
『野ブタ。をプロデュース』は、学園モノという形式を通して、人と関わるのが苦手な若者たちが他者に心を開いていく過程を丁寧に描いた青春ドラマの金字塔である。
物語は、暗い性格のせいでいじめられていた転校生の女の子・小谷信子(堀北真希)を、クラスの人気者の桐谷修二(亀梨和也)と変わり者の草野彰(山下智久)が陰ながらプロデュースすることでクラスの人気者に仕立てあげていくというもの。
本作も『マイ・フェア・レディ』的なシンデレラストーリーなのだが、野ブタ(信子のあだ名)がイジメから脱却していく姿は早い段階で描き切り、後半になると、暗くてウジウジしているように見えた野ブタの心の強さに感化される形で変化していく修二の物語に変わっていく。
原作は芥川賞候補にもなった白岩玄の同名小説だが、脚本を担当した木皿泉は、原作では男だった野ブタ(信太)を女性に設定し、うわべだけのコミュニケーションに従事していた修二の隣に変わり者の彰を配置することで、原作小説では描き切ることができなかった、修二の救済を描き切った。一見、人見知りとは真逆に見えるコミュニケーション能力の高い修二もまた、人に心を開くことができない弱さがあるというのが本作の白眉で、人とうまく話しているが、実はしんどいというタイプの人見知りの人は修二に感情移入してしまうこと間違いないだろう。修二がどのようにして救われるのか、ぜひ、見届けてほしい。(成)

見習いたい? 反面教師? 人付き合いの“達人”たち

『マイ・インターン』(2015年)

人生経験豊かな大人が、悩める若者たちを導く
ロバート・デ・ニーロとアン・ハサウェイが共演したハートウォーミングな映画『マイ・インターン』。デ・ニーロは、「こんな紳士になりたい!」と心底思わせてくれる大人の魅力にあふれています。
シニア・インターン制度によって、ジュールズ(アン・ハサウェイ)が社長を務めるファッション通販会社に入社した70歳のベン(ロバート・デ・ニーロ)が、長い人生で培ってきたスキルで、悩める若者たち(特に、仕事と家庭の両立に頭を痛めるジュールズ)を導いていきます。彼のアドバイスはいつも的確なのですが、中でも秀逸なのがハンカチをめぐるやりとり。「ハンカチって意味あるの?」と聞かれて即答するベン。「必需品だ。知らないのは罪だぞ」「ハンカチは貸すためにある。女性が泣いた時のために」
恋人とトラブってもメールを送るばかりの若者には、「ちゃんと会って“君が大切だ”と伝えたか?」。一朝一夕には彼のようになれないかもしれませんが、少なくとも彼のアドバイスには従ったほうがいいみたいですね。(紀)

『横道世之介』(2013年)

彼のことを思い出す時、誰もが幸せな気持ちになる……
『悪人』『怒り』で知られる吉田修一の原作小説を『南極料理人』(2009年)の沖田修一監督が映画化した『横道世之介』。80年代後半のバブル期を舞台に、長崎から大学進学のため単身上京してきた青年・横道世之介(高良健吾)とその周囲の人々を描く青春映画です。
描かれるのは、とりたててドラマチックな出来事が起きるわけでもない、ごくありふれた日常。入学式で隣の席に座った倉持(池松壮亮)と友人になり、なりゆきでサンバのサークルに参加、年上の女性(伊藤歩)に恋をし、人違いが原因で加藤(綾野剛)と知り合い、その縁でお嬢様の祥子(吉高由里子)と交際することになり……。
世間知らずでお人好し、不器用で空気が読めない世之介ですが、人なつっこく、なぜか憎めない。映画は1980年代のある1年間を描写する合間に、2000年代を生きる登場人物たちの“いま”が語られる形で進みます。学生時代以来ほとんど会ったこともないのに、ふとした瞬間に世之介のことを思い出して笑顔になってしまう人々。「あいつに会ったというだけで、お前より得した気分だよ」「世之介のことを思い出したら、みんな笑うんじゃないかな」そんな風に他人に思い出してもらえるとしたら、悪くない人生だったんじゃないかな。そう思えて心が温かくなる作品です。(紀)

『ラブ・アクチュアリー』(2003年)

さまざまな形の“愛”が交錯する大人のラブコメ英国風
ヒュー・グラント、コリン・ファース、アラン・リックマン、リーアム・ニーソンといった英国が誇る名優たちが顔をそろえた『ラブ・アクチュアリー』は、気の利いたセリフの宝庫。全編にわたって恋や愛がかけめぐる、大人のためのラブコメです。タイトルからして「この世には愛が満ちあふれている(love actually is all around)」というフレーズから取られたものですしね。
描かれるのは独身の英国首相から小学生まで、夫婦愛やきょうだい愛、片想いも含んださまざまな愛のかたち。さらに、おしゃれなクリスマス・ストーリーにもなっています。
中にはこんなシチュエーションも。恋人に浮気され(しかも相手は実の弟!)、傷心のままフランスを訪れた作家ジェイミー(ファース)は、身の回りの世話をしてくれるポルトガル人女性に恋をします。毎晩、彼女を車で送っていく彼は「君を送る時が一日で一番楽しい」と語り、彼女は「あなたと別れる時が一番つらい」と返します。しかしこの時、二人は互いの言語が理解できていないのです。言葉が通じなくても、気持ちは同じということを示したステキなシーン。
「人生は邪魔が入ったり、厄介ごとが降りかかる」でも、想いのままに突き進めば、きっと叶う願いだってあるはず。登場人物の一人もこう言っています。「映画だって、最後が大事だ!」(紀)

『すいか』(2003年、日本テレビ系)

テレビドラマのクラシックと呼べる名作
テレビドラマは脚本家で語られることが多く、その面白さの多くはセリフに現れる。
このドラマも、宝石のように素晴らしいセリフが多い。今回も原稿を書くために『すいか シナリオBOOK』(河出文庫)を読み返していたら温かいセリフが多くて、思わず泣きそうになった。
脚本は、さきほどの『野ブタ。をプロデュース』のほか、『昨日のカレー、明日のパン』(2014年、NHK)や『富士ファミリー』(2016年、NHK)といったドラマで知られる木皿泉。夫婦で執筆する異色の脚本家で、執筆本数は少ないが文芸的な脚本が高い評価を受けている。『すいか』は、木皿泉がはじめて民放のゴールデンタイムで書いた連続ドラマで、低視聴率ながらも高い評価を獲得し、向田邦子賞を受賞した。
主人公・早川基子(小林聡美)は34歳で独身の実家暮らし。恋愛経験もないまま、信用金庫で黙々と働いていたのだが、同僚の馬場ちゃん(小泉今日子)が3億円を横領して失踪したことで、自分の人生を見つめ直して、ハピネス三茶という賄い付きのアパートで一人暮らしを始める。
一人暮らしを始めた基子は生まれ直すようにアパートの住人と淡々とした日常を楽しく過ごすことで変わっていく。(大学教授なので)教授と呼ばれている夏子(浅丘ルリ子)が基子にかける「居てよしッ!」という言葉や、失踪した馬場ちゃんが言う「梅干しの種見て、泣けた」という言葉の重みは、本編を見た人には切実に響くのではないかと思う。テレビドラマのクラシックと言っても過言ではない名作である。(成)

『最高の離婚』(2013年、フジテレビ系)

愚痴ばかりの光生を応援したくなるが、教訓も
『それでも、生きてゆく』(2011年、フジテレビ系)や『カルテット』(2017年、TBS系)など、数々の話題作を手掛けている坂元裕二もまた、魅力的な会話劇を得意とする脚本家だ。中でも、二組の夫婦の離婚危機から物語がスタートする『最高の離婚』は今見ても面白い。
主人公の光生(瑛太)は口を開けば、「結婚って、長い長い拷問ですよ」と、愚痴と皮肉ばかり言う30代の男で、その卑屈な性格が原因で、奥さんの結夏(尾野真千子)と離婚することになっていく。
基本的にコメディーテイストの恋愛ドラマで、軽妙な会話劇は見ていて楽しい。世界中の不幸が自分に押し寄せているかのように愚痴をまくしたてる光生だが、自分の知らないところで昔の恋人や、奥さんを傷つけていた「男の鈍感さ」が突きつけられていく後半は胃が痛くなる。それでも、他者と向き合おうとする光生の姿は確かに応援したくなる。光生の悪態は面白く、毎日を不器用に過ごしている人にとっては魅力的に見えるかもしれない。ただ、彼の振る舞いは反面教師的なもので、そんなふうにしていると「大切な人が離れていってしまうよ」ということを描いているように思う。(成)