身近な冒険家「野宿野郎」に聞く

野宿って何なの? 原っぱに野宿して考えてみた

2017/09/13(水) 公開

こんにちは。編集Nです。みなさん、旅をするには寝る場所って必要ですよね。宿があれば泊まることができるけど、なかったら外に泊まるしかないんです。そう、野宿です。地の果て、森の奥、山の上。冒険の最中にも、外に寝る野宿は付きもの。野宿という言葉の意味こそわかれど、その実態がどんなものか実は知らないのではないか。そもそも野宿って何なのか。その実態を探るべく、野宿のスペシャリスト「野宿野郎」にお話を聞いてみました。

人生をより低迷させる旅コミ誌『野宿野郎』編集長(仮)のかとうちあきさん
1980年神奈川県生まれ。野宿旅で本州縦断(青森県竜飛崎~山口県下関市)や四国一周、お遍路、九州縦断などを行ったほか、野宿イベントなども開催する。著書に『野宿入門―ちょっと自由になる生き方』(草思社)、『あたらしい野宿(上)』(亜紀書房)など。

こんにちは。冒険のことを考えていたら、野宿というワードが頭から出てきまして。学生時代に見掛けた『野宿野郎』を思い出して、ぜひお話を聞かせてほしいと押し掛けてしまいました。

野宿! とっても楽しいですよ。私に答えられることだったら、何でも聞いてください。

では早速ですが、かとうさんはそもそも何で野宿しようと思ったんでしょうか? 普通に生活していると、あんまり「野宿しよう」ってならないですよね?

取材はかとうさんが運営する「お店のようなもの」で行った

ほんとにざくっと聞きますね。えーと、何だろう。まずきっかけから話すと、最初に野宿をしたのは女子高生のときでした。

えっ、女子高生? 野宿とは正反対のところにいそうだけど。

野宿したいと思い始めたのは中学生からです。その頃、思春期というか、わりと暗い感じだったので「このままではいけない」みたいな思いがあって。「スタンド・バイ・ミー」(1986年公開)とか、「イージー・ライダー」(1969年公開)とか。そういう野宿映画を見て「おっ、何だこれは。青春っぽいぞ」と思ったのが始まりです。

野宿映画かどうかは置いといて、たとえば「スタンド・バイ・ミー」を見て、「旅しよう」の前に「野宿しよう」ってなるのは、なかなかの目の付けどころですね。

えっ? でもなんか、みんなでたき火を囲みながら寝るじゃないですか。そこで主人公たちがいい話をするみたいな。あれは、外で寝る(野宿する)ことによって、きっと成り立っている映画なんですよ。

そこまで言われると……。でもそれを本当に実行しちゃうのはすごいですね。

やっぱり「青春したい」って気持ちがあったので。高校は女子校だったんですけど、幸い同じクラスにそういうことをしたいという子がいて。2人で横浜から熱海に徒歩で80キロくらいですかね、歩いて旅に出ました。

壁には野宿を意識させるように寝袋が。なんと1個500円

やっぱり旅ですよね。野宿と切っても切り離せないのは。そのときはどんな野宿支度で旅立ったんですか?

そのときはテントを持ってなかったし、買うにも高いし。テント立てるって気はなかったなぁ。やっぱそのままゴロンと寝たかったのかな。ゴロンと寝ることこそが青春っぽいというか。だから基本は寝袋ひとつですね。

寝袋ひとつでどこに寝たんですか? 場所も探すのは大変ですよね。

初めは側溝ですね。道路の。

ん? 側溝? 今、僕聞き間違えましたかね?

いや、間違ってませんよ。側溝です。

え? どうして?

それはやっぱり、野宿スキルがあまりにもなかったということですよね。今だったら危ないので寝ないですね。

初めて側溝に寝た人と会いましたよ(笑)。

たぶん怖かったんですよ、初めてだったし。道路から見えないっていうのが重視ポイントだったので、選んでしまったんですかねぇ。

※良い子は絶対にまねをしないでね。

かとうさんの初野宿となった側溝での1枚(提供:かとうちあき)

やっぱり怖さはありますよね。「スタンド・バイ・ミー」のような青春を目指した初野宿だったわけですが、実際にやってみて楽しかったですか?

私の場合、思い描いていた青春とは……、まあちょっと違いますよね(笑)。まさか自分が生きていく中で「側溝に挟まって寝る」ということがあることを予想していなかったですし。

それはそうですよね。側溝だもん。

はい。でも、こんな所に挟まっても寝られるなら、どこにでも行けるんだろうなって思ったときが、ちょっと世界が広がった気がしてうれしかったですね。

おお、求めていたのはそんな感じのことですよ。やっぱり何かしらの世界が開ける感じってあるんですね。寝る場所を自分で作れるって、行動範囲がぐんと広がりますよね。

ですね。泊まる所を決めちゃうと、そこまで行かないといけないですからね。それってとっても不自由なことですもんね。

より自由な旅ができるってことですね。でもこの初野宿をきっかけにハマったわけなんですか?

すごくハマるきっかけになったのは、高校3年生のときにやった「本州を歩いて野宿してというのを繰り返して縦断する」というやつですね。青森の竜飛崎から山口の下関まで、53日間。

それはすごい。もう世界の果てに冒険に行く感じですね。

えー、全然違いますよ(笑)。歩きゃ着きますから。でもそのときに長いこと野宿をして、なんかどこかで野宿が生活になった瞬間みたいなのが、すごく面白かったんですよね。

ちょっと言い過ぎ感はありましたけど、誰でも挑戦できるものなのかもしれないですね。野宿旅って。

誰でもできます! 私もやって思ったのは、「誰でも時間さえあればできるんだ」ってことで、逆にそれが面白かったなぁ。海を渡るのは自力ではできないけど、日本国内の地続きの場所だったら歩いていけば絶対着くみたいな。その感覚がわかったのが面白かったです。

四国のお遍路野宿。お寺の軒先などを貸してもらえることもある(提供:かとうちあき)

ちょっと水を差すようであれなんですが、野宿ってやっぱりグレーな部分もありますよね。どこで寝たらいいのかとか。

そうですね。清く継続的に野宿をするためには、なるべくコミュニケーションをとって円滑に泊まらねばならず。でもそれは大変なことでもあり、面白いことでもありますね。

「ここでやってもいいですか」みたいな話をつけるわけですね?

そうですね。小さな集落とかの場合は「ここに寝たいんだ」ということをにおわせて、怪しいやつではないことをアピールしながら、向こうに承認してもらうようなことを。怒られないように気を付けています。

意外と野宿をするって、街の人とのコミュニケーションのきっかけにもなっているんですね。

そうですね。それもやっぱり野宿の素晴らしさだと思いますね。

野宿が町に入っていく手段にもなっているとはなんだか意外でした。ほかにも野宿のここが「スバラシイ」っていうところはどこだと思います?

かとうちあきさん

「外で身ひとつで寝る」という開放感とか気持ち良さみたいものはありますね。私は自然の中より人里でやる野宿が好きで、人が面白いと思っているところがあるので。人とのコミュニケーションもそう。あとは野宿って自由に過ごせる場所を拡張していく行為みたいなところが私は面白いと思っていて。

もっと自由に生きたいみたいな?

そうそう。野宿をすると、なんだか「ちょっと自由になる」みたいなことがあると思います。

ありがとうございました。なんだか僕も野宿したくなってきたので、ちょっと行ってこようと思います。

◇原っぱで野宿してみた

というわけで、かとうさんに野宿の醍醐味(だいごみ)を聞いたところで、さっそく野宿に出掛けてみた。今回は土地を管理している人に許可をいただいて、街から数分の所にある里山の原っぱに泊まることに。

いざ、野宿。

2017年8月某日。原っぱへと来たのは良いものの、いったいどこに寝床を作るべきか。いちばん大切にしたいのは、「いかに快適に朝を迎えるか」ということ。

雨に不意をつかれたり、蚊にいっぱい刺されたりするのは避けたいので、雨が降ってもある程度はしのげる、なるべく下草が少ない場所がいい。とりあえず、そんな条件を満たしていそうな木の下に寝床を作ることに。

場所を決めたら、暗くなる前にさっさと寝床作りに取り掛かる。

北枕にならないように、きちんと方角をチェック。今はスマートフォンですぐに知ることができるので便利だ。夕暮れ時だったら、日が沈む方向からも方角を知ることができる。

方角がわかったらシートを敷く。なくても問題ないが、原っぱだと地面が湿っていることも多いので、あると快適。

さらに寝やすいようにエアマットを膨らます。ここまでしてしまうと「野宿ではない」と言われるかもしれないが、マットの有無が寝心地を大きく左右するので気にしない。銀マットや段ボールでも、ある程度は代用可だ。

下地を整えたら、そこに寝袋を置いて完成!

試しにザックを枕にして寝てみる。

なんとも言えない開放感。原っぱにただ一人寝転がっていると思うと、ちょっと心細くもあるが、夜空を見ながら寝るというのはロマンチック。

ただ寝袋は想像以上に蒸し暑く、包まって寝るというよりも、着の身着のままで寝転がりたい気分。そんな暑さに加え、夏場は蚊も寄ってくるので、蚊取り線香も忘れずつけておきたい。

そんなこんなをしていると、あっという間に辺りは真っ暗に。寝転がっている写真から30分しかたっていない。

原っぱとはいえ、電波は普通に飛んでいるのでパソコンを開いて作業もできる。「野宿リモートワーク」という、新しい働き方を提案。

作業していると、周りに光源がないので羽虫がパソコンの画面に集まってくる。暗闇の中で作業していると、思わぬ発見もあるものだ。

あっ、ホタルだ!

写真の真ん中あたりに見える黄色い線のようなもの。実はこれ、ホタル。スキルがなさすぎて全く撮れていないが、気付いたらホタルがたくさん飛んでいた。

◇野宿飯をつくる

ひと仕事終えたところで、ご飯の時間だ。

かとうさんの著書『あたらしい野宿(上)』の中でシェルパ斉藤さんが紹介していた「野宿飯」を作ってみる。用意するのは、コンビニのおにぎりと水、あとはコッヘルとバーナーがあれば完璧。

まずはおにぎりのご飯とノリを分けて、ご飯だけをコッヘルに入れる。

次に、おにぎりが浸るくらい水を入れる。

あとはバーナーを使って沸騰するまで煮立てるだけ。煮立てるときはふたをしておかないと、虫が飛び込んでくるので注意が必要。

沸騰したらノリをちぎってご飯の上に。これで簡単、コンビニおにぎりを使った野宿飯の完成である。

箸がないことに気付いたので、偶然持っていたエビせんべいでいただく。

おっ、意外とウマい!

今回は昆布のおにぎりで作ったので昆布味だったが、それが絶妙にエビせんべいとマッチする。野宿で食べるだけではもったいないくらいで、新しいおにぎりの食べ方として家でも実践してほしいと思う出来栄えだ。

◇本格的に寝てみた

食後は適当に読書。ほどよく眠くなってきたところで、横になる。

だいぶ夜も更けてきたが、寝袋に包まるとまだまだ暑さを感じる。

寝袋をやめて蚊に刺されるか、暑いのを我慢するかの二択。かゆさより暑さ、結局は寝袋に包まって寝ることに。

周りに自分と外を遮るものが何もない中で寝るのは、とても違和感を感じる。どこからも丸見えの状態で寝るというのは、相当に無防備なことのように思えてくるし(実際にそうだし)、そう思うとなかなか寝付けなくなる。

たとえ、テント1枚でも外界と自分が隔てられていれば、安心感がまるで違うんだろうと思いながら、必死で寝ようとするもやっぱり寝付けない。これがかとうさんが初野宿で感じた、見えない所で寝たいという感覚なのか!

とはいえ、横になっていると寝てしまうのも人間。いつの間にか眠りに落ちていた。夜中に何か物音がするような気がして起きることもしばしば。

そして、朝。

4時30分。ピーヨ、ピーヨと鳴く、ヒヨドリの声で目が覚めた。

特に何も起こらなかった。

昨日の夜は暑かったのに、朝はちょっと肌寒さも。起きた瞬間は視界が開けているので、身ひとつで外にごろんと寝る開放感や気持ち良さを感じる。

思いのほか、体もシャキッとしていて目覚めがいい。野宿旅となると疲れもたまるのかもしれないが、1泊くらいなら蚊に刺されることさえ我慢できればなんてことはなさそうだ(蚊取り線香1つでは蚊を防ぎきれなかった)。

お湯を沸かしてコーヒーを飲むと、少しぜいたくな気分になれる。

1泊でも野宿をすると、たしかに野宿に対するハードルは下がる。本当に「意外と泊まれるんだ」という妙な自信と快感が湧いてくるのだ。

かとうさんはそれを「ちょっと自由になる」と言ったが、まさにその通りなのかもしれない。当てもなく旅をしても、どこかに寝る場所を貸してくれる人がいて、ぐっすりと眠ることができれば、心置きなく旅に出ることができる。

だが一方で「意外と泊まれる」という自信と快感は、油断をすれば事件や事故にもつながりかねない。世界を舞台にした大冒険とはスケールはまったく異なるが、野宿にもそれなりのリスクは潜んでいる。

とはいえ、やってみたいことをやってみる。そして、やろうと思えばできてしまう。恥ずかしいとか、人の目が気になるとかで、諦めてしまうのはもったいない。そんな当たり前のことを「野宿」は気付かせてくれた。

(取材・文・写真/Yahoo! JAPAN)

◇野宿に持っていったものリスト
寝袋、エアマット、シート、コッヘル、ガスバーナー、ライター、蚊取り線香、水、おにぎり、エビせんべい、インスタントカップコーヒー、スマートフォン、ヘッドライト、置き型LEDライト、財布、手ぬぐい、本、パソコン、カメラ、三脚、雨天対策(折りたたみ傘、1人用テント)
◇忘れたものリスト(なくてもなんとかなる)
箸、ティッシュペーパー

編集担当
野宿は危険や法律上の問題を伴うことがあります。くれぐれも自己責任で、そして周囲への配慮を欠かさずに、清い野宿を心掛けてください。