水中探検家・広部俊明

360°カメラで迫る沖縄、水中探検の世界

2017/09/12(火) 公開

生き生きとした文体でつづられた冒険譚(たん)に想像力を働かせ、見たこともない景色が収められた写真の向こう側に憧れを抱く。時には、彼らの口から語られる物語やテレビから流れる映像に、わくわく、どきどきと心をおどらせる。

でも、冒険家や探検家が本当に目にしている景色とは、どんなものなのだろうか。もっと鮮明に、彼らが目にしたものを見たい。例えば、360°カメラで映像を撮ってもらったら、よりリアルに追体験できるのではないか。

広部俊明さん

こんな思いつきに応えてくれたのは、水中探検家の広部俊明さんだ。

1998年に日本最大級の海底鍾乳洞「広部ガマ(恩納海底鍾乳洞)」を発見した日本を代表する水中探検家の1人で、現在も国内外を問わず、人類未踏の海底鍾乳洞などにダイブを繰り返している。

ここ最近は、海洋研究開発機構がグアム島近くのマリアナ海溝・水深8178メートルで魚の映像撮影に成功するなど、海の話題は深海のものが多いが、「人が潜れるところにもいろんな発見がある」と広部さんはいう。

地球上の約7割の面積を占める広大な海。今回はそのほんの一部、沖縄・恩納村の海底鍾乳洞の1つに360°カメラで迫った。

撮影にはアクションカム5台を使用した

360°映像で見る、海底鍾乳洞ドリームホール

水中の洞窟は光が一切差し込まない、本当の闇の世界だ。「地上なら夜でも星の光で目が慣れて来るけど、洞窟は本当の闇。目が慣れるってことがない」。

今回、撮影を行なったのも広部さんが活動拠点を置く、沖縄県の恩納村にある「ドリームホール」と呼ばれる海底鍾乳洞だ。かつては地上にあったものが、時間とともに海底に沈んだとされている。恩納村を訪れるダイバーに人気のスポットで、出口付近(映像内2分15秒〜)の岩の形がピカチュウに似ていると言われている点が特徴だ。

そのドリームホールの海中探検の様子を収めたのが、下の360°映像である。映像内に写っている赤い魚は、アカマツカサ。1分46秒頃から群れで泳ぐのは、リュウキュウハタンポ。鍾乳洞内の撮影にはライトを使用した。

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水中の世界との出合い

「水中探検家と名乗っていますけど、それでは稼げないんですよね。だから水中カメラマンとか、インストラクターとか、番組制作とかもやってますね。でもその稼ぎもほとんど機材とか旅費に使っちゃいますよ」と笑い飛ばすが、この情熱が「広部ガマ」などの海底鍾乳洞発見につながっている。

どうしてここまで水中探検が好きなのか。きっかけは、現在も活動を続ける自身のバンド「The Blimp Club」(1988年に「夢工場」から改名)にあった。

広部俊明さん

「ちょうど24歳の頃、バンドが売れなくなってきて、ファンの集いをやることになったんです。当時よく行っていたライブハウスの店長に、南紀串本(和歌山県)の串本ダイビングパークを紹介してもらって、そこで集いをやったら、店長も来てて。『ここまで来たら、体験ダイビングせにゃあかんで』と」

しかし体験ダイビングは1回13000円。売れなくなったバンドにとっては高すぎる金額だった。それでも「いちばん店長と親しかった」という広部さんは、残りのメンバーに料金を半分出してもらい、初めてのダイビングに挑んだ。

「もうサンゴが奇麗で、キビナゴの群れの中にカマスが突撃してくるシーンとかも見ちゃって。うわ、これはすごいって」

翌週にはお金を工面し、ダイビング講習に申し込んだ。その1年後にはインストラクターになった。渋々だったダイビングが一転、広部さんの人生を大きく変えたのだ。

恩納村という「いちばん好きな海」

広部さんが恩納村でダイビングショップ「マリンドリーム夢塾」を開いて、今年で22年になる。初めて恩納村の海を見たとき、「地形が面白かったり、サンゴが奇麗だったり、ものすごいポテンシャルがある海だなと思った」。

船の後ろに付けたロープにつかまって、水中を見ながら面白そうな場所を探し、気になったところには片っ端から潜っていった。

「伊豆のダイバーって自分のエリアを徹底的に調べるんですよ。そのやり方を沖縄でもできたらいいなと、僕はこの恩納村の万座エリアを中心にやることにした。だから今は、この辺りのサンゴとか、クレバスの場所は全部わかるんです」。

「そこからはなんか匂いでわかるようになってきて、ここあるんじゃないかなと感じたところに、海底鍾乳洞があったりして」と話す広部さんは、経験に裏打ちされた技術をもつ職人のようでもある。広部ガマの発見後も、同じ恩納村や名護市の辺野古沖、ソロモン諸島、フィリピンなど、さまざまな場所で海底鍾乳洞を発見している。

「とにかく誰も潜ってないところを潜ってみたいという思いがある。誰も入ってないということは60億人、地球の歴史の中でいったらもっとだけれど、その中で初ということ。月への第一歩を踏み出したアームストロング船長みたいなものだと思ってます」

広部俊明さん

「モットーは広く深く」どこまでも好奇心を追い続ける

「同じ海は1回もない。潜るたびに、いる魚だったり透明度だったり。毎回違うんですよ」

気づけば、潜水回数は恩納村の万座エリアだけで約10000回。全てを合わせると、そろそろ16000回に達する。「今年がちょっと少なくて、まだ312本しか潜ってないですね」という言葉からも、水中探検に対する熱量の大きさを計り知ることができる。

まだまだ潜ってみたい場所は山ほどある。

「今度は1カ月くらいメキシコのセノーテの洞窟に入ろうかな」「静岡県にある滝がちょっと怪しいと思っている」「海底に眠る沈船はじっくり撮影したい」。ほかにも、長良川や四万十川の上流から下流までを下ったり、ダム湖の底に沈む町を撮影したり……。

聞けば聞くほどに、次なる構想がどんどんあふれてくる。

「探検はもうずっと続けていきたいですね。僕は好きになったものは嫌いにならないんですよ。どんどん好きになっちゃう。僕のモットーは広く深くだから」

次はいったいどんな水中の世界を見せてくれるのか。きっとまた新しい発見と驚きを僕らに与えてくれるに違いない。

(取材・文/Yahoo! JAPAN、写真/ナカンダカリ マリ、映像撮影/ブルーアース、映像編集/中島唱太)

広部俊明(ひろべ・としあき)
水中探検家、水中カメラマン。1965年東京都生まれ。96年に水中探検家として活動を始め、98年には沖縄県恩納村で日本最大級の海底鍾乳洞「広部ガマ(恩納海底鍾乳洞)」を発見、調査。以降、多くの海底鍾乳洞や海底遺跡を発見する。バンド「The Blimp Club」のボーカルとしても活動。